外つ歌:踊る人形

 青い流星が煌めくと、次の瞬間には救国号が飛び蹴りかませて裏拳打ちからの膝蹴りで黒い触手の多くを叩き潰していました。
 学習した触手が即座に腕や脚を生成して対抗し、救国号と四つに組むと、名前すら書かれない男は笑顔を浮かべて後は任せたと告げると機体から降りて触手の上を走りました。
 一瞬のことになすすべもなく、触手に巻かれていたバロやバルクを縄抜けの要領であっさり救うと、二人に向けて言いました。
--少しばかり時間を稼いでもらう必要がある。絶技なしで30秒ばかり稼いでもらおうか。
 バロは尋ねました。
--お前は。
--誰でもいい。だが
 名前すら書かれない男は静かに言いました。
--子供たちの護り神だ。
 バロが怪力で、バルクが杖で戦う間、名前すら書かれない男はわずかな見切りで数千の腕の攻撃をことごとく回避すると、取り込まれている静日のもとへたどり着きました。
 腰の古びたホルスターに差した銃を抜くと、銃を向けて微笑みました。
--いつだって僕は君を助けているな。
 静日の瞳が裏返り、人語を喋りました。
--銃が効くと思っているのか。忌々しい人類決戦存在よ。
--効くさ。これは、歴史を変えるために生まれた銃だ。
 NP15aと刻印された銃の引鉄を引いて、名前すら書かれない男は触手たちを無数の泡に包んで情報分解させました。
 銃を回転させてホルスターに入れると、上着を脱いで静日に被せて抱き上げます。
--このまま君をお母さんの所に連れていけたらどんなに良いかと思うが。
 そうしてよたよた寄ってくるクェースを片目で見ました。
--だがきっと、それでは君の心は救われたりしないんだろう。優しいことは悪くはないが大変だよな。
 それで微笑むとクェースの背の上に静日を乗せてやって、バロを見ました。
--何を言っても無駄だろうから忠告はしない。
--なんだ貴様は。
--さてね。なんでも絶技で解決しようとは思わない事だ。
 次の瞬間には名前すら書かれない男は救国号もろとも姿を消しました。
 痕跡の一つも残ってはいませんでした。静日の肩に乗った上着以外には。

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