外つ歌:スタンダップヒーロー

 ballsたちは時間が足りないことを計算で確かめて機体完成を放棄すると、円になって盆踊りをして、英雄を呼ぶ大召喚魔術を使い出しました。
 プラチナballsが意味不明の命題を出して、これに対してballsたちが無線通信の歌で答え続けていくのです、そのたびに円から上がる光が強くなっていきました。

--我らは戦う人を呼ぶ
--傷つく事を恐れては、ささやかな心さえ守れない
--スタンダップ 我らのヒーロー
--我らの存在しない胸の奥、確かにあるメモリー
--スタンダップ 我らのヒーロー
--とじめやみにあわらわれて 人々が目覚めるそれまでに
--夜をまもるまぶしい足音

 ballsたちが静日救済を求めて祈りを捧げていると、未完成の機体の中心シートさえ入ってないコクピットルームの真ん中に転移の呪文を示す七つの螺旋が現れると、人影が吹き上がる白煙とともに現れました。

--お呼びだろうか。
 名前さえ書かれることのない一人の男を前にして、ballsたちはおずおずと声をあげました。
--お呼びです。勇気ある女の子が危機なのです。
--なるほど。それは救わないといけないね。
 白い手袋をつけて拳を握ると、一人の男は機体を精霊手で殴りつけました。
--因果の前借りだ。動いて見せろ、救国号。
 未完成だった機体の瞳に火が灯りました。踊るような黄金の文字が打刻されはじめて動くはずのない機体が動き出したのです。
 次の瞬間、機体は青い流星のように世界移動しながら上空に打ち上がりました。宇宙船の天井から星空、星空から青空へ。
 両手を広げ、立った状態で機体を操る一人の男は、救国号に声を掛けました。。
--全力ダッシュだ。パイロットを無視して加速開始。100G出しても構わない。銀の谷へのゲートシフトは僕がやる。
 救国号は涙に見えるような光の筋を残すと、出力を上げました。長い長い青い光の線がいくつもの世界を越えていきました。

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